2011年1月7日金曜日

冬休みホンヨミ② 『上達の法則』 【岡本】

『上達の法則 効率のよい努力を科学する』岡本浩一

一つのことをただひたすらに無心で、一心不乱に打ち込む…本書を読むと、そのような体育会系の根性論が必ずしも「効率的」ではないことが分かる。もちろん一つのことを極めるのに手間と努力と時間が必要なのは認めるが、努力の効率化によって、根性論で一つのことを極めるのと「同じ時間で」2つのことを極めることも出来る。決して多くはない時間の中で、努力もまた「頭を使って」すれば、より多くのことに精通できるのであり、本書は主として脳科学・心理学の観点からその仕組みと方法を教えるハウツー本である。効率の悪い努力を費やした時間の長さで補完するのか、効率の良い努力で余った時間を他のことを究めるのに費やすのか。もちろんそれは人それぞれだが、時間はやはり有限だ。

①一芸に秀でることは多芸に秀でること
同じ時間を費やせば誰しもが同じ域に到達するわけではない。自分の身の回りにも、何年やっても一向に上達しない人がいると思えば、少しやっただけで何でも器用にこなしてしまう人がいる。ではそのように人を分ける要因とは何か。本書の冒頭で筆者はその要因を「上達の法則にかなっていたかどうか」と分析する。具体的な方法論についてはぜひ本書を一読して頂きたいのだが、本書に書かれているような上達の法則を体得するには「まずは一芸に秀でること」が肝要となる。多芸に秀でる人というのは、中でも特に一芸に秀で、それを体得したノウハウを一般論に昇華し、上達を必要とする様々な場面に実践できている場合が多い。

②自分なりの「好き」を見つける
楽器の上達なりスポーツの上達なり、どんなことでも初期の段階で自分が「好きだ」と思える「特定の何かにこだわりを持つ」ということが重要だと筆者は語る。たとえば音楽なら速い曲が好きだとか遅い曲が好きだとか、あるいは特定のコード進行が好きだとかそういう細かい部分も含めて。「好き」というのは脳の認知プロセスの中でその部分が「意味あるものとして処理(有意味処理)」されている証拠であり、それにこだわりを持つことは、あらゆることの上達に不可欠な「全体を有意味処理すること」の端緒となるからである。

③後退しなければ前進している
技術の修得には、時として多大なる忍耐を必要とする時期が存在する。いわゆるスランプというものだ。これは初級者が中級者になるときよりも、中級者が上級者になる、あるいは上級者がさらに技術を高次に磨いている間に起こりやすく、かつその期間が長期に渡りやすい。成長がピタリと止まってしまうために大きな不安を感じるこの停滞期間は学問的に「プラトー」と呼ばれるのだが、これはどんな技術の修得にも当然に見受けられる現象なのだそうだ。筆者が提唱する、そんな時期に有効な呪文が「後退しなければ前進している」というもの。一番やってはいけないことがその時点で努力を放棄することであり、現状の実力を維持できる程度の努力を続けていれば、どれほど先になるかはケースバイケースだが(10年以上かかることもあるという)その先の飛躍が期待できる。誰しもがおそらく経験し、思い悩んだことのあるだろうこの停滞期も、来たる上昇の前触れと思えれば気持ちも楽になるというものだ。

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