2011年1月7日金曜日

冬休みホンヨミ③ 『ブランド 価値の創造』 【岡本】

『ブランド 価値の創造』石井淳蔵

読んでてかなり頭がこんがらがってくる本。新書だと思って軽い気持ちで読んでいると間違いなく文脈が追えなくなるというなかなか重たい一冊。「ブランド」という、当たり前のように転がっていながらその実「形のないもの」を構成する様々な要因について、事例とともにかなり詳細かつ独自的な分析を加えていて、難しいが面白い。

①「プリッツ・チョコ」ではなく「ポッキー」
「ポッキー」は「ポッキー」だからこそロングセラーとなったのであり、仮に「プリッツ・チョコ」として(「ポッキー」は開発サイドとしてはそもそもプリッツの系列品程度にしか考えていなかったらしい)発売していたらこれほどのロングセラーとはならなかっただろう、という著者の視点は非常に面白く、かつ本質を突いているように思われる。つまりブランドは「固有名詞」であることが大事なのであり、系列品であれば「ポッキー」に注がれたような相次ぐ新機軸の導入はなされなかっただろうし、それ故にこれほどの成功も収めなかっただろうと。もちろんそれだけでは足りないが、ブランドであることの必要条件が「固有名詞であること」というのはなかなか言い得て妙という感じがした。

②スタイル的価値にも機能的価値にも還元されない『ブランド価値』
かつて「ニューコーク」がテイストの改善(=機能的価値の改善)によって「オールド・コーク」に取って代わることがなかったように、あるいはまた「イッセイ・ミヤケ」ブランドが氏自身の作風の変遷(=スタイル的価値の変化)によって価値を無くさないように、「ブランド価値」とは特定の「何か」に還元される価値ではない。ブランドとは消費者おのおのの人生の一瞬一瞬でそのブランドが傍にあった、といったような遥かに曖昧な基準によって支持されるべきもので、「味が良い」とか「汚れが良く落ちる」とか「音質が良い」といった相対的な特徴は「ポジショニング」や「コンセプト」でこそあれ、ブランド価値の根源たりえないのである。

③単なる群集心理では説明され得ない「ブランド」
ブランドというのは「価値があると感じる人々がいてこそのブランドであり、そのような人々が一斉にいなくなれば全くの無価値になる」という共同幻想や群集心理的なものではない、と筆者は説明する。というのも、ブランドはその名を冠した商品群と支え支えられる関係にあるからだ。特定のシチュエーションやユーザー層を想定した、一見して無関係な商品をカテゴライズし定義づけるのがブランドであると同時に、ブランドもまた、それにふさわしい性質を持つ商品群によって確固たる地位を確立する。その意味で、ブランドは形無き故に幻想であるという主張はナンセンスであり、形が無いにもかかわらずそれを支える商品によって社会的存在という性質を帯びるのがブランドなのである。

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