2011年1月5日水曜日

冬休み ホンヨミ② クラシック音楽はいつ終わったのか【黄】

「クラシック音楽」はいつ終わったのかー音楽史における第一次世界大戦の前後
岡田 暁生著

①音楽を巡る激動
19世紀。それは市民社会が成立された時代だ。そしてその先に待っていたのは何もかもを暴力によって破壊する大戦争だった。それは音楽にも例外なく起きた。「この戦争で生じた社会の根底的な再編成が、18世紀後半の啓蒙の時代以来のインテリ・ブルジョワ文化の没落をもたらし、さらにはファシストとボルシェヴィキ革命の温床のなった」。そして「19世紀市民社会が作り出したクラシック音楽の語法・美学・制度とは決定的に違った音楽」が第一次世界大戦前後に登場することになる。第1章では第1次世界大戦前後に何が起きたのかを大まかに俯瞰できるよう節が設定されている。

②音楽家達の戸惑い
第3章、4章では戦争中の動きにスポットライトが当てられている。その中でも特に印象的なのが戦争が長期化するに従って徐々に戸惑っていく音楽家達の姿だ。「大戦争が勃発したとき最も熱狂したのは、いわゆる知識人たち」で「文化の力で現実政治を動かす事ができる」と固く確信し、音楽が担うべき「精神文化によってこの大戦争を勝利に導く」という役割を果たそうとした。いや、果たせると彼らは確信していた。しかし現実にその愚かさを思い知らされる事に・・・。

③第一次世界大戦とは
第5章では、この第一次世界大戦が音楽史においてはどのような役割を果たしたのかについて検討している。戦争を通して「人々を集団的な死に向かわせる程の力を音楽は持ち得る。ただしそれは国家や軍歌であって、決してオペラや交響曲ではない」という事を人々は学んだ。著者はこの章のまとめとして「この苦い事実に一体どういうスタンスをとるのか。これこそが、音楽と真剣に向き合おうとする人々に対して第一次世界大戦が突きつけた、最大のアポリアであったかもしれない」と結んでいる。ヨーロッパの音楽史はその変貌の壮大さに息をのむ。本書はその一局面を捉えるにおいて大きな助けとなる事は間違いないだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿