2010年12月4日土曜日

【ホンヨミ1203】シティズンシップの教育思想【田島】

『シティズンシップの教育思想』 小玉重夫

あなたは、「学校の先生」という存在をどうとらえますか?先生には何が必要だと思いますか?

 専門的で思想的な偏りのない知識と言う人もいるし、金八先生のような大人の見本としての道徳観や指導能力を求める人もいる。あるいは、その両方だろうか。「教育とは家庭・学校・地域の三つの場で行われるもの」とされているが、核家族化や地域のつながりの消滅によって、学校が子どもの経験するほぼ唯一の集団生活の場になりつつある。「知識の教授」に加えて「社会人の育成」など、教員は社会に多くの役割を期待されている。
 本書は、なんと古くは古代ギリシャのソクラテスから現代に至るまで、「先生のポジション」がどう変遷していったかをまとめた本である。非常にわかりやすい文章でするする面白く読めるようにまとめてあるので、教育学に興味がない人でもまったく問題ないだろう。
 特に興味深い部分は高度経済成長期→バブル崩壊→現代に至るまでのポジションの変遷の分析である。教育には生徒のモチベーションを上げるために「勉強した先にあるもの」が必要となってくる。具体的には、「勉強したらいい就職ができる」といったようなユートピアである。しかしバブルがはじけて日本の雇用が悪化するとそのユートピアが消失し、教員は「学校教育の無力さを自覚しながらも、生徒の前ではその正統性を主張しなければいけない」というシニシズムに陥ることになる。経済状況と学校教育の在り方は、関連ない風を装っているが実は深い相関関係にあるということがとても興味深かった。最近議論されている「就活長期化問題」もそれが顕在化した一例であると言っていいだろう。

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