小泉達冶『バイオエタノールと世界の食糧需給』
バイオエタノールという燃料については、誰でも一度は耳にしたことがあるだろう。サトウキビやトウモロコシを原料とし、ガソリンと混合した燃料であり、原料が植物であるため石油のような枯渇資源とは違い、半永久的に利用できる再生可能エネルギーとして注目されている。(石油よりも)CO2削減、農業雇用拡大効果もあり、ブラジルを始め、特にアメリカがバイオエタノールの導入を国策的に推し進めている。日本でも「バイオマス・ニッポン戦略」として目下普及が進んでいる。石油が100年以内に枯渇することが考える中、次世代エネルギーの一端としてバイオ・エタノールには今後もさらなる注目が集まるだろう。本書は冒頭においてバイオエタノールの説明や、長所と短所等、国家ごとの取り組みについての記述が具体的データを用いて丁寧になされており、バイオ・エタノールを知る入門書としてふさわしいと言えるだろう。
さて本書のメインテーマは、「食糧及び飼料用作物であるサトウキビとトウモロコシの燃料利用は、食糧需給にどのような影響を与えるか?」である。経済学の手法を用いて国際価格上昇の予想が丁寧に検証されており、「トウモロコシ・ショック訪れる!?」などど過激な表現で読者を煽る類の本ではない。
米がバイオエタノール推進を声高に主張した際、南米ではデモが発生した。南米における主食であるトルティーヤはトウモロコシを原料としており、「米のバイオエタノール政策が主食の価格上昇を招いた」と彼らは主張した。実際バイオエタノールに使われるトウモロコシとトルティーヤに使われるトウモロコシの種類は別物であり、その根拠の正しさは眉唾ものである。しかし、とうもろこしの消費を輸入に依存していたり、とうもろこしによる食糧援助を受けている開発途上国にとっては、今後深刻な問題になりえることは間違いがない。そして、とうもろこしの9割を輸入に依存する日本にとっても他人事ではない。
資源のあるなしは国の命運を大きく左右する。歴史上、資源の争奪のために多くの戦争が引き起こされた。資源の無い国は生産において大きく不利であり、原料の調達のために頭を捻らなくてはいけない。石油輸入のコストを非石油産出国がバイオエタノール生産で補おうとすれば、食糧不足の国が価格上昇で苦しむこととなる。資源・燃料問題は、世界がゼロサムゲームであることを映し出す。
資源に注目すると、関係諸国のパワーバランスはその地理的条件でほぼ決定されてしまうと言ってもよい。だからこそ資源を持たぬ日本にとって、資源を必要とせず人間の想像力が生み出す付加価値によって利益を生み出すコンテンツ産業は重要であると言える。
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