2010年11月5日金曜日

【1105】なぜケータイ小説は売れるのか【栫井】

なぜケータイ小説は売れるのか/本田透

日本の電子書籍といえば、馴染みある人も多いのがケータイ小説だろう。一時はブームとなり、次々にケータイ小説のサイトが立ち上がり、書籍が出版された。

自分の書いた小説をアップロードし、読んでもらう。「魔法のiらんど」など、作者も読者も無料で利用することの出来るプラットフォームから「恋空」「赤い糸」などの人気作品が生まれた。
2億弱PVという多大なアクセス数を誇ったのち、「恋空」(スターツ出版・2006)「赤い糸」(ゴマブックス・2009)は書籍として出版され、瞬く間にベストセラーとなり、映画化・コミックス化とメディアミックスが広がっていく。

1)逆メディアミックスー無料から有料へ
ケータイ小説が成功したと云われるのは、アマチュア作の元々無料のケータイ書籍でありながら、紙書籍としての購買に結びついたからだ。それは、書籍をファンアイテムとして販売し、無料のプラットフォームで既に獲得していた作品のファンを取り込んだことが要因である。ケータイというファン層にとって身近なインフラを使って無料で読ませ、口コミを起こし、充分に読者にとっての価値を高めてから、有料で販売する。従来の書籍が、買わせることを大前提に置いた上で広告を打つことと比べ、ケータイ小説はケータイで行われる無料のプロモーションが前提にある。

2)ターゲットの着眼点
また、ケータイ小説が売れた理由は、それまで簡単には小説を買わなかった層に訴求したことにある。「恋空」を買っていたのは、大部分が女子中高生である。プロの小説は、買うどころか読みもしない層がケータイ小説ならば購入したのだ。
アマチュア作品、特にケータイ小説は、既存の賞制度等で画一化されたプロの作品とは違った毛色を持っている。そのため、既存の作品が取りこぼしている層・既存の作品から離れていった層に新たに訴求する可能性を持つといえる。

3)「小さな物語」の具現化
ケータイ小説の大きな特徴は、自分の体験をベースにしていることだ。この体験が、女子高生にとっての”リアル”感を演出し、彼女たちに中毒的な人気を誇ったと考えられる。
大塚英男らが云うように、戦後「大きな物語」としてのイデオロギーが喪失し、信頼すべき柱が無くなってしまった。次第に人々は信頼出来るものなどないというニヒリズムに陥っていった、というのが現代でしばしば言われることである。
女子高生も例外ではなく、従来の小説などで言われる価値観は、彼女たちにとって信頼に足るものではなく、綺麗事ではないリアリティあるものを求めてきた。
その欲求にフィットしたのが、彼女たちと同じ立場の作者が自身の経験を元に書いたケータイ小説だった。

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