2010年11月9日火曜日

【1105】スペイン現代史 模索と挑戦の120年【田島】

楠貞義、ラモン・タマメス、戸門一衛、深澤安博『スペイン現代史 模索と挑戦の120年』

太陽の沈まぬ国、闘牛の国、みなさんはスペインという国にどのようなイメージを持っているだろう。先進国としての印象が強い西ヨーロッパにあるスペインが、ほんの30年前、私たちの両親が学生だったころまで独裁的な権威主義体制国家であったことを意識する機会は、今日では少ない。本書は文字通りスペインの現代史を扱ったものであるが、いわゆる物語のような形式ではなく、時代を区切ってそれぞれ「政治体制」「経済」「教育」などテーマごとに書かれているため、何かスペインの現代史で具体的に知りたい部分があるなら非常に役に立つだろう。

スペインが30年間以上独裁体制国家を維持し続けられた事実には、「民主主義をリードする西側陣営」というイメージもあいまって、「時代錯誤感」を感じさせる。はたして国際社会はこれを批判しなかったのか?事実、終戦後以降「元枢軸国寄り」「反共産主義」「独裁国家」というレッテルを持つスペインが、連合国が作る新しい国際社会秩序の中で味方を作ることは困難だった。国連は決議によって、スペインの国連及び関連組織への加入を拒絶し、スペインは事実上国際的孤立期に入った。マーシャルプランからも除外されスペインの経済は困窮を極めたが、最終的にはアメリカがスペインへの経済支援を決定する。東西冷戦が深まる中、米国の対東戦略において、スペインの地理的条件の良さが注目されたのだ。西側諸国は冷戦軍事政策と引き換えに、結果的には「独裁国家」スペインを承認することとなったのである。

マイナーにも思えるフランコ期のスペインの歴史を知る意義は何か。独裁体制・権威主義体制といういわば「化石」のような政体が1970年代まで西ヨーロッパで餌を生き続けたいびつさには、民主主義という国際社会の「正義」より、実態は権力闘争が優先されるという国際政治の事実が表されている。声明などに現れる国家の建前のみを鵜呑みにせず、現在の国際情勢の裏側にどのような権力争いが隠れているのか、常に注目していくべきである。

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