2010年11月9日火曜日

【1029】フランコ スペイン現代史の迷路【田島】

色摩力夫『フランコ スペイン現代史の迷路』中央公論新社

ご存知のようにフランコとは、スペイン内戦に勝利して権力を掌握し、1975年まで個人独裁体制を維持させ続けたスペインの独裁者である。2007年スペインでは「歴史記憶法案」が施行された。スペインでは75年以降でも、フランコについて語ることは避けられる風潮にあった。 いわば一種の「タブー状態」であったと言える。しかし民主化後初めてフランコ体制への批判を盛り込んだ同法案の可決など、近年フランコについて再考しようという試みが行われている。
前述のように情報が公開され始めたのが最近であることもあり、フランコに着目した日本の学術書は少ない。この本はフランコという人物に注目しスペイン現代史を紐解いた珍しい書籍である。また記述が詳細であり、国粋派を中心としたスペイン現代史に関する本としても役に立つだろう。

フランコに関しては、日独伊を中心とする枢軸国と極めて密接な関係にありながら、第二次大戦を通じて中立を標榜し、結果的に戦後も政権を維持できた事実が興味深い。しかしフランコ自身は大戦のゆくえを予期していたわけではなく、内戦後の貧困に苦しみ、参戦を阻止するために連合側が申し出た援助に飛びついただけともいえる。フランコは軍人としての溢れる才能でもって出世し、権力を持つことには執着していたが、高度に知的な理想もイデオロギーも持っていなかったといってよい。「ナチズム」「ファシズム」といった政治思想を持ったヒトラーやムッソリーニが倒れ、イデオロギーに傾倒せず目先の利益にすがりついたフランコ政権が生き残ったことは皮肉ではあるが、それが国際政治の真実であるのかもしれない。フランコは自ら世界秩序に働きかける能力はないものの、バランスをみて波に乗って泳ぎ切る能力はあった。国益を優先し、自国に有利な国際情勢を活かすという外交において必要なことは果たしているが、フランコの外交能力を高評価するかは、個々人の「外交能力」の定義によるだろう。

最近対中国への日本の外交は稚拙であるとの批判の声が上がっている。長い間平和を享受し、国際政治の本質である、パワーの維持、国益の維持のための外交感覚は失われてしまったのかもしれない。もちろん第二次大戦は二度と起こってほしくない惨禍である。しかし限られた時間の中で危機的状況に対応してきた戦中の政治家たちの軌跡を見ることは、リーダーに必要な資質や外交とはなんであるかを再び考える機会を与えてくれるだろう。

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