2010年7月3日土曜日

【ホンヨミ!】0702①考えないヒント【斎藤】

考えないヒント アイディアはこうして生まれる/小山薫堂

 アイディアは考えて、考えて、考え抜いた結果、得られるものではなく、アイディアを生み出しやすい状態に自分をもって行く事が重要なのだというのが本書の主張だ。つまり、机に何時間もかじりついて作業するのではなく、日常のさりげない出来事に対してアンテナを張っておく事でアイディアの種を拾い集めてストックしておく事が重要になる。

 本書の中では、筆者が触れてきた様々なアイディアの種の例が紹介される。自分がホテルのプロデュースをした例、お客を喜ばせることを追求する銭湯の例、はたまた、子供の頃のエピソードなど色々だ。こういった事柄に対して、筆者はどうやったらビジネスにつながるか、金を生み出せるかということばかり考えるのでなく、いかにそれらを楽しむかということを念頭においている点が特筆すべき事だと感じた。多くの人は仕事は義務的なものと感じてしまうだろう。つまり仕える事という意味だ。しかし、仕事を私事ととらえてあくまでも自分が楽しんでやるのだという意識を持っている点は、普通のサラリーマンからしたら羨ましくもあり、ある意味うっとうしくもあるかもしれない。

 日常に対して、常に新しい事を求める習性はクリエイティブな職業に就く者にとっては必須な性格だと思われる。私自身、メディアコムに入りそういった分野について知っていくウチに自分は常に新しいものを追い求めるより、ある程度じっくりものを考える方が向いているのではないかと感じてきた。そういった、個人の性格、資質的問題についても、無理に強制するのではなく自分にあった道、方法に進んで行けば良いと述べている点も納得ができるものだった。中には万人がそれなりのスキルを身につければ、ある程度の成功をする事ができるとする者がいるが、そうではなく筆者があくまでも筆者自身がクリエイティブな仕事に向いていた事を前提にしているため読み易く、参考になった。また、アイディアを生み出す人(野球におけるピッチャーの様に球を投げ込む)と、そのアイディアを洗練して行く過程で役に立つ人、新たな価値を付加できる人(野球で言うキャッチャー)に分けることができると述べられており、バンナム企画にマッチする所があって面白かった。

 先に、筆者が新しいを探し、アイディアを常に生み出そうとしていると書いたが、そんな筆者だからこそ、広い事を浅くやっていると感じることがあるらしい。そんな時にいわゆる職人達の様に一つの事を極めようとする人々に憧れるようだ。例えば左官の仕事をやる職人は一度だけ壁を塗るのではなくて、七回ほど重ねて塗る。これにより、壁の厚みが増して独特の質感が生まれる。また、農家の老人に対してカメラマンが”今年の米は良いものができそうか”と訪ねると、”あなた達は年間に何万回とシャッターを切るから、撮った瞬間に出来がわかるかもしれないが、私は米を50回しか作った事がないから、良いものができるかどうかわからない”と答えたそうだ。米は年に一回しか収穫できないため、50年もの年月をかけてもまだまだ自分は未熟であるという謙虚さが感じられる。こういった自らの職に対する誇りを持つ事は極めて重要であり、筆者のように年間に様々な種類の仕事をこなす場合でも、そういった事は共通してる事を感じた。

 また、バンナム企画において参考になりそうだったのがプライオリティーに関する考え方だ。例えば金曜日が期限の課題があり、その打ち合わせを月曜日にする予定だとする。月曜に間に合わない場合に、月曜日の約束を破ったからなるべく早く課題を形にしようとして火曜日に内容の薄いものまとめあげるよりは、最終期限の金曜日に間に合う範囲で完成度の高いものを作るべきという考えだ。つまり、ここでは月曜日の打ち合わせに間に合わせることではなくて、良い企画を作ることにプライオリティーをおくべきだと言う事だ。
 
 プライオリティーは常に一つではないことも念頭においておきたい。例えば、プレゼン用の企画を考える際にはクライアントを満足させることを第一とすべきである。なぜなら、そこで採用されなければ、企画が商品かされないからだ。そして、いざ商品化の段階になると世間での受けを第一に考えるようにスイッチを切り替えなければならない。クライアントを満足させたからといって、必ずしも消費者を満足させられるとは限らないからだ。このようにその場ごとで何にプライオリティーを置くのかの判断も重要だと感じた。


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