2010年7月1日木曜日

【ホンヨミ!0702】畑村式「わかる」技術【田島】

畑村式「わかる」技術 畑村洋太郎


先週金ゼミにゲストスピーカーとして来てくださった猪子さんは、目まぐるしく変わる現代社会の「本質とは何か」を常に考えようとする人だった。ゼミ中にも猪子さんに対し「本質をとらえられるようになるにはどうすればよいか?」という質問が投げかけられた。そしてそれに対し返ってきた答えは、「あまり自分は情報を入れない」という意外なものであった。本質をとらえるために知識を収集するどころか、むしろ入れないとはどういうことか?
これは、「わかった気になる」ために知識を集めることよりも、知識をどう組み合わせて自分なりの考えを構築するかが重要だということを言ったのではないだろうか。そして今週手に取った本書は、まさに「本質を捉える」ためのヒントを与えてくれる本であった。


本書で著者が提案する「わかる」技術は、例えば難しい講義がわかるようになるとか、そういった「情報把握」の技術のみを言ってはいない。複雑にして未知の問題に遭遇したとき、どのような行動をとればいいかが「わかる」、そのような問題解決能力までも想定しており、タイトルから受ける印象よりも内容は深い。
筆者が主張するに、社会が成熟し複雑になった現代を「わかる」ためには、問題の構造を分析し、自分の頭の中の思考用の種(知識や法則。いわば思考の部品である。)を用いて、新しいテンプレートを構築して、現象を理解することが必要である。「複雑怪奇な現代の諸問題に対し、新しいテンプレートを自ら構築して立ち向かうこと」、これが本質をつかむことだと筆者は言う。しかし、この「自ら新しいテンプレートを作り出す」ことが最も重要にして最も難しいのだ!一体どうすればいいのか?

それに対して筆者は具体的な方法論は示さない。それは当然である。なぜならば、筆者はこの自ら作り出す能力を「筋力」として捉えているからだ。筋力を鍛えるためにいくら本を読んでも無駄である。筋力を鍛えるのは、日々の自発的で地道な訓練だ。この本を読むだけでは「わかる」ようにはならない。この本は、自ら構築しようという行為をまず初めてみよう、TRY&ERRORしてみようと提案しており、「わかる」ようになるための方向性を示すトレーナー本なのだ。(しかし、筆者は自分が常日頃から行っている思考力訓練方法を公開してくれているので、それも大いに参考になる。)

複雑で予想がつかない社会、誰も「正解」を示すことはできない。例えば誰もが電子書籍に注目するが、既存のビジネスモデルでは説明できないそれが今後一体どうなるのか、予想することが大変難しい。知識は部品であり、必要ではあるが、それがあっても問題を解決することができない。大切なのは、各自が部品を組み立てる力なのである。


新しい問題に向き合っていく金ゼミ生向けの本であると思う。もっと考えられるようになりたいがどうすればいいかよくわからない、そんな人におススメしたい。

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