2010年6月25日金曜日

【ホンヨミ0625①】グローバル・ジハード【田島】

グローバル・ジハード 松本光弘

政治学科の勉強のために読みました。


本書は警察庁で国際テロリズム対策課長を勤め現在も公安課の幹部である著者が、アルカイダなどのイスラム過激派と彼らの持つ「グローバル・ジハード」とも呼ばれる思想についてまとめた本である。私は今年の夏アメリカのNYに行く予定があり、「9・11テロ」を引き起こしたイスラーム過激派の思想的実態を知りたいと思い、本書を手にした。
 日本はグローバル・ジハードの主敵である米国と緊密な関係を結んでおり、イラク開戦後、ビンラディンが列挙した攻撃対象のなかに含まれるに至った。中東問題を思想的に馴染みが薄いからと軽視するのではなく、しっかりとした対策を講ずることが必要である。

 連日ニュースで報道されていながら、なかなか理解することが出来ずにいたイスラーム過激派の思想とそのバックグラウンドを知ることが出来、非常に有意義な本であった。過激派は暴力的手段を厭わないなど非常に特殊な面を持つとはいえ、その根はやはり一般的なムスリムと同じところから発していることが理解できた。むしろ、一般的なムスリムよりもイスラームに対して純粋である、とももしかしたら言えるのかもしれない。イスラーム過激派は、イスラームという宗教の持つ限界をあらわしている気がする。イスラームは「神の唯一絶対性」を重んじているが、このような一元論的考え方は、迎合しないものとの闘争を引き起こす可能性を常にはらんでいる。ジハード主義者は「イスラームが人類唯一の生き方である」とするが、個人主義・民主主義が発達し思想の自由や信教の自由が明文化した西欧型社会にこの一元的な思想を定着させることは非常に困難である。また、マウドゥーディーなどのイスラーム主義者は、議会制などのような「人が人を支配するシステム」は神の唯一絶対性を侵していると主張するが、現実的に考えて、完全なフラットな状態では社会が機能することは困難だ。そこでウラマーなど神の意思を理解していると思われる存在が神の代わりに「指導者」となり、政治的な舵取りをすることになると考えられるが、その主張がやがて「腐敗したウラマーが神の権利を侵している」という主張に転化することは想像に難くない。
 イスラーム過激派のテロ組織を解体させるためにはどのような手段をとるべきか。武力行使でリーダーたちを殺害することは短期的には効果的かもしれないが、その死はイスラーム世界では「殉教」とみなされ、さらに反米イデオロギーに火に油を注ぐ結果になりかねない。「真のイスラーム世界と西側のジャーヒリーヤ世界」という二項対立がジハードとテロリズムを生み出すため、長期的にはそれを緩和することが必要ではないだろうか。アメリカは中東に議会制民主主義など自分たちの「正義」を根付かせようと苦心しているが、それはイスラーム世界を無視し対立を深めることでもある。西側諸国が本当にすべきことはイスラームの世界観を理解し尊重することだと、本書を通じて考えた。

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