2010年5月27日木曜日

【ホンヨミ!】著作権の世紀【岸本】


 時事の事件、判例を扱いながら、取っ付きづらい著作権の問題をやさしく解説されているので、読みやすい本でした。
 読んでいて一番参考になったのは、まとめの章での「情報の海」における情報専有のあり方でした。情報専有の3つの方法には、1. 秘匿、2. 技術(DRM)、3. 法的権利があるとのことですが、2と3ではどんなに情報を囲い込んでも情報流出するリスクは常にあるので、iPodやKindleのようなゆるやかな、ユーザーのニーズを満たすような信頼ベースでの囲い込みを構築すべきであると感じました。

 以下は自分なりの疑問と一部仮説です。

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問1. これからのアーティストはいかにして創作活動に取り組むべきか?

仮説:特に基本の創作技法が確立しているものに関しては、「パクリ」の境界線に対して気をつけながら創作を行うことが求められる。(そしてそれが結果的にアーティストの独創性につながる?)

例)音楽家の菊地成孔
 音楽史研究や音楽評論を行い、また楽理的な分析も行う同氏は、従来の音楽著作権問題は「主旋律」もしくは「歌詞」のパクリが問題となり、コード進行、リズム構造やアレンジは問題にならなかったと指摘している。
 また、「すべてのポップスは何らかのパクリである」と言い、自身の作品では複数の音楽をサンプリング的にコピーし、また要素要素に分解し、組み合わせ、主旋律を変化させている。
 例えば、彼のグループの曲「Monkey Mush Down」ではヒップホップグループN.E.R.D.の「everyone nose」という曲のドラムとベースをほとんどそのままコピーし、その上にテクノポップグループYellow Magic Orchestraの「体操」のピアノのフレーズやジャズの帝王Miles Davisの「On the Corner」という曲のハンドクラップなど別の曲の要素要素をのせるなどしている。
 この曲がただのパクリに留まらないのは、その模倣への自己言及であり、ネタ元の曲を半ば明らかにしている点、タイトルが「マッシュアップ」との言葉遊びになっている点などが挙げられる。

 どこまでやると一般的に「パクリ」と認知されるのか、その境界線を見極め、自己言及的に模倣と創作のバランスを取る事がこれからのクリエーターに求められるのではないか。

関連:Ideas comes from everywhere (メディアアーティスト真鍋大度の文章)


※5月28日2:40追記:「リズムの著作権が問われない」という問題に関して、ダンスミュージック史で有名な「amen break」というドラムの刻み方がある。元々はThe Winstonsの「Amen Brother」という曲の中のドラムソロのわずか6小節であったが、これがサンプリングされ、テンポを変え、ヒップホップからブレイクビーツ、ドラムンベース、更にはJ-POPなど様々な音楽に流用される常套句になった。

(動画1:26頃からが「amen break」)



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問2. 創作ツールの普及、そしてマネタイズの普及によって、今後アマチュアのアーティスト間での著作権問題が顕在化する恐れがある?

 例えば、「自作の歌」と称した歌がYouTubeにアップされ、それが注目されメジャーから発売されるようになったアーティストがいたとして、その歌が明らかに自分の歌と同じであった場合はどうするのであろうか。

仮説:顕在化したとしても徐々に移行して行くので、YouTubeやニコニコ動画に準じるCGMサービスがJASRACに代替するようなコンテンツの権利の一括管理を行って、また仲介に入るようになる。(個人で発信出来るようになったとはいえ、基本的に何らかのウェブサービス上に個人が作成したコンテンツをのせるので、ウェブサービスがUGCを集めるために代替して権利の処理をする)

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問3. N次創作の親作品・子作品の関係を可視化、収益の明確化は次の創造に繋がるか?

 現在ニコニコ動画の「コモンズ・ツリー」(例)で行われているようなN次創作の親作品・子作品の関係を可視化することで、将来的に収益分配に活かす事が出来るとする意見がある。
 ここで問題となるのは親作品の作者への分配のしくみといかに親作品の作者が改変や加工の幅を認めるかである。

仮説:親作品の作者がクリエイティブコモンズのように幾つかの権利を放棄する、もしくは収益分配率を規定出来るようにする仕組みが必要。

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問4. プログラムから生成されるコンテンツに著作権は発生するか?

 現在主にメディアアートなどのアート作品を中心に、プログラムが自動的にコンテンツを生成する作品がある。この場合、どこまでが著作物としてカウントされるのであろうか。


 例えば、このパッチが生成する音楽は2度と同じものにはならない。こうした自動生成される音楽を仮にコンテンツとして売り出す場合、その著作権はプログラムの著作者に属するものなのであろうか。

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問5. 情報専有の3つの方法が示されていたが、情報は一度流出すると歯止めが利かないので、ある程度流れる事を前提にリスクをヘッジしたビジネスモデルの構築が求められるようになる?

 Appleがフランス政府に非難されてiTunesで非DRMの楽曲を販売しなければならなくなったときに、その価格設定はDRM:非DRM = 1:1.3であった。これはAppleが海賊率を30%と仮定し、その条件をコンテンツ提供者に認めさせたということになる。このようにDRMに頼る事無く、料金設定を活用する事で、情報専有することが出来るのではないだろうか。

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