2010年5月7日金曜日

【ホンヨミ!】0507①クラウド時代と〈クール革命〉

『クラウド時代と〈クール革命〉』 角川歴彦 著


ITの発展によって、大衆の嗜好が社会を動かす<クール革命>が起こっており、日本の産業構造は大きな変化を迫られる。本書は、そのような現代の中で「〈クール革命〉の力で生き抜く道を、現役経営者の視点で模索し確信に至った覚醒の書」(同書帯より)であると自任している。

しかし、私が本書の内容に強い違和感を覚える。

まず、「日本のポップカルチャー・文化が世界中から注目を浴び、尊敬されている」ということを前提として論を進めているが、その根拠は曖昧であり、客観的なデータが示されていなかった点については強い違和感を覚えた。

また、「クール・ジャパン」という言葉を具体的な定義なく多用し、「ソフトパワー」という複意的な言葉を「文化・宗教・哲学や経済力などによって得る力」と乱暴に定義している点も看過できない。本書の中でも引用されているアメリカの政治学者ジョゼフ・ナイは、ソフトパワーを「国の魅力などの非強制的な要素によって、自国にとって望ましい行動を他国に取らせる力」と定義している。つまり、ソフトパワーは外部(外国)に対して作用することによって初めて発生する力であり、自然発生する力ではない。ゆえに「得る力」という表現は不適切であり、魅力=ソフトパワーという本書における誤用を最も端的に表しているといえよう。また、アニメやマンガをどうすればソフトパワーに転換できるかについて説明がなく、少なくてもソフトパワーに関す稚拙であると言える。

アニメやマンガなどのコンテンツについても、「日本発祥」ではあるが「日本しか作れない」わけではなく、他国で日本発のポップカルチャーの影響を受けた新しい形のコンテンツが登場する可能性も十分に考えられる。

また、ハリウッド映画を「物語が類型的」で「感性に訴える力が弱くなった」と評しているが、筆者が「アジアのコンテンツ産業けん引する大きな武器」と評価している「オタクコンテンツ」には同様の問題点はないだろうか。私には、日本のアニメやマンガも無意識のうちに類型化が進んでいるように感じられる。

本書の中で、欧米人を「大雑把な感性」と評したり、現代グローバル化の期限を「ガガーリンが「地球は青かった」と実感したとき(中略)人類は一体と意識された」と説明したりしている点が見受けられるが、これらは筆者流のユーモアなのだろうか。

現代のコンピュータ技術についての説明も極めて簡略であり、コンテンツと技術の融合について多角的な説明を期待していた分、失望させられた。


しかし、5章以降のITと既存のコンテンツの融合やそれにおける著作権などの問題を乗り越える方法についての説明は非常に興味深かった。

特にコンテンツ制作企業を経営する筆者がyoutubeとの提携に至った経緯は非常に興味深く、当事者の立場としての意見は考えさせられるものであった。

また、「日米の大手家電メーカーがソフトウェア会社の下請けになっている」原因として「1つ1つのプロダクトアウトにこだわって、全体構想が描けない」ことを挙げ、それを解決するためには、大衆の嗜好を重視した複合的な製品を製作していくべきであるという主張にも強く共感した。


本書のもう一つのテーマである「クラウド」については、クラウドコンピューティングの発達によってコンピュータは「所有から利用」へ変化すると予想している点も同感であった。

本書は、現代のITとコンテンツについて網羅的な説明がなされている点では評価できるが、それらの情報が報道をまとめただけのように私には感じられたのは残念であった。

本書をITやコンテンツについて学ぶ本としてよりも筆者の主張を知る本としてとらえた方が妥当であろう。


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