2010年4月29日木曜日

【ホンヨミ!】0430①クラウド時代と<クール革命>【斎藤】

『クラウド時代と<クール革命>』 角川歴彦


本書で述べられている『クール革命』とは、高度なIT化が進み社会の様々な場面で大衆が参加し、大衆の嗜好や意思が社会を動かす現象を指している。たとえば、twitterにおいては各人が思いつきでつぶやきを発信することができる。そのほとんどが無意味かつ無用なものであり情報としての価値は低いといえる。しかし、リアルタイムに人々がつぶやくことでネット空間に巨大知なるものが形成されていき、圧倒的な情報量となる。この巨大知はつかみどころがなく少々厄介なものであるが、ここでは質よりも量が価値を持つことになる。これからの時代では大衆の動向、意思をいち早く感じ取る、むしろ先読みしたものだけが勝ち残り、かつ勝者総取りとなるのだと提言されている。

 現在のところ、その勝者となっているのはアメリカの企業であるGoogle, Amazon, Appleなどであり日本勢は遅れをとっている。日本が高い技術を持ちながらもガラパゴス化してしまった要因に、日本独自の規格が世界の市場で受け入れられないことが挙げられる。一方で、本著ではそのようなガラパゴス現象を一概に悪いものとはしていない。世界中で高い評価を受ける日本のアニメをはじめとするサブカルチャーは日本独自の精神文化のなかで育まれたものである。また、手塚治虫を代表とするようにひとりの有力な作家に頼る作家至上主が日本ではとられてきた。それは漫画界だけでなく、日本のものづくりにおいて共通する姿勢だとされる。ディズニーの製作方法のように集団でミーティングを重ねて市場に最も受け入れられそうな作品を目指す方法とは正反対だ。このようにアメリカと日本では物を造る上での土壌の違いがある。

私は日本において重視されてきた「もの造り」での技術の高さはもちろん大切であるが、それ以上に、作った製品を大衆である消費者の生活の中に組み込むデザイン力が重要だと感じた。Apple社はipodのハードウェア開発から音楽配信そして課金までを一括して行うハイブリッド型のビジネスモデルをとったことで消費者の音楽に関する生活を囲い込んだ。大衆である消費者はただ単に音楽再生プレイヤーを手にしただけでなくアプリケーションの開発、配信もできる。大衆を取り込むことで最も大衆に近い製品を提供することが可能なのだ。私達はipodiphoneを使用する際に自分の好みに応じてアプリをダウンロードする。結果的に使用者の要望を最も充たした製品が完成してゆく。従来の日本の製品のように高品質ことを追求していくビジネスモデルとは異なるのだ。実際、世界中で売れているのはappleの製品であるのだから日本の企業も方針転換していかなければならない。

 本書ではクラウド時代の到来により引き起こされるのは、我々が予測不可能な出来事に直面することだと指摘されている。先に述べたipodyoutubeの登場のようなイノベーションは音楽業界の構造そのものを変化させ、著作権問題をはじめ社会全体に対して強い影響与える。また勝者総取りが原則となり、平均値というものが意味を持たない。百人の貧しい人々の中にビルゲイツがいる場合を考えたらそのことは明白だ。その事実は大衆の不安感へと直結していくが結果としての不平等は容認される。そのような社会こそ革命的なイノベーションが起こりやすく、それを実現しているのがまさにアメリカである。それに比べると日本やヨーロッパでは安心、調和、安全が優先されるためイノベーションは起こりにくい。

 この本を読んで私はアメリカ勢が世界中の「知」を独占しつつあることに危惧を抱いた。たとえば、googleが持つ世界中の本をデータベース化する構想は大衆にとって非常に便利なことである。既存の出版社をはじめ不利益をこうむる人々はいるだろうが、世界中の本に対していつでもアクセスできる環境整備はかつてのグーテンベルクによる印刷技術の発明並みの革命になるとされ、それによる大衆が受ける恩恵は計り知れない。しかし、そのシステムを担うのはアメリカの一企業である。世界中の、歴史、宗教、学問、文化…に関する書籍をgoogleの検索システムを使って探すのであれば必然的にアメリカに関するものが上位に来る。それはアメリカによる知的支配ともいえるのではないか。近年よく言われていることだが、アメリカ的価値観という物差しによって多様な世界を一元的に測ることは困難である。無理にそうすれば対立、摩擦が生じかねない。我々がそのような危機意識を抱いていても、知のグローバル化が起こる現代ではアメリカ勢による進出を防ぐことは難しい。このように大衆に利益をもたらす一方で、ある一つの出来事により大衆が圧倒的な影響を受けるのがクラウド時代であることを認識しなければならないと感じた。

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