2010年4月29日木曜日

【ホンヨミ!】0430②若き友人たちへ【斎藤】

『若き友人たちへ』 筑紫哲也

 本書は長年ジャーナリスト、ニュースキャスターとして活動してきた故筑紫哲也氏が早稲田大、立命館大で大学院生向けに行っていた講座での話を新書として書き起こしたものである。

 筑紫さんがこの本で一貫して私たちに伝えようとしているのは、社会で起こる様々な事象を正しくとらえようとする姿勢を持って認識し、自分の考えを持たなければならないという事だと私は思う。しかし、その正しさというものこそ最も不明瞭であり、完全に悪と区別可能であると考えるのはあまりに稚拙であると述べられる。政治、宗教、歴史、事件、戦争などに関しては特にその性質は顕著に表れ、メディア等から与えられる情報を信じっ切きって、自ら思考することを止めてしまえばそれは本当の意味で「知る」ということにはならない。 
 この本では日本という国家を中心に置いて話が進んでいく。その中で愛国主義は悪党の最後の隠れ家であるという言葉がでてくる。生まれ育った風土、家族、仲間を愛する心は私たちのアイデンティティを形成する上で重要となるが、それを振りかざして自らの主張を肯定する者には注意が必要であると主張されるのだ。
では、本当に物事を「知る」ためにはどうすればいいのか。それはinformation(情報),knowledg(知識),wisdom(知恵)による知の三角形を成立させることであるという。現代の情報社会では圧倒的に情報量が多く、肝心な知識、知恵が欠如しやすい。そこで情報のスペースを適度にし、知識を増やし、根底となる判断する能力を高めることが重要であるとされる。例えばパレスチナ問題に関してニュースを見ることを一旦やめ、まずはイスラム教、キリスト教、ユダヤ教、中東の地理などについて勉強してみることが大切であるという。 そうすることでのちに得るニュース等からの情報がより生きてくるのだ。
 また、問題を抽象化することも重要であるとされる。はじめはこのことが何を指すのかわからなかったが、個々の問題にとらわれるのではなく本質に何があるのかを探し当てる能力のことらしい。確かに個々の出来事だけにとらわれていたらその都度に右往左往してしまうかもしれない。この抽象化の能力のためにも先に述べた知の三角形がカギになるだろう。
 情報社会に生きる私たちはともすればその量に圧倒され、個々の事象を追いかけることで精一杯になってしまうかもしれない。本書は長年報道の第一線で活躍された筑紫さんの言葉によるものであったから、より一層説得力があった。

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