2010年4月30日金曜日

【ホンヨミ!0430①】パラダイス鎖国【田島】

『パラダイス鎖国』海部美知

「パラダイス鎖国」とは造語であり、「海外との接点を積極的に持たず自国に引きこもりながらも、国内の市場・文化が成熟しているため、満足しながら生きていける状態」を指す。中世の日本と同じこの幸せな鎖国状態が、現代の日本でも起きているという。こういった問題を語る際、よく引き合いに出されるのが日本の携帯電話事業である。最近では2つに分離できる携帯なんてものが発売されたように、オサイフケータイ・高機能カメラなど日本の携帯電話は高い技術力を搭載している。しかしながら、海外市場における競争力がほとんどない。日本国内において携帯電話生産は各種有名メーカーの過当競争になっており、それに勝利するため国内市場に集中しすぎたあまり、人脈・ニーズともに海外との接点をなくしてしまったという。

「海外とつながらなくても、国内で幸せにやっていけるのであれば良いのではないか」という考え方もあるだろう。江戸時代に日本が特色のある文化を形成し、十分自立した国作りを行えていたように。しかし、幸せな江戸時代の終わりを日本人に告げたのはアメリカからやって来た黒船であった。パラダイス鎖国状態では、圧倒的な差を見せ付ける「黒船」に対応できない。それを最近端的に示したのが「iphoneの台頭」であろう。日本では「スマートフォンは流行らない」と言われていたが、ソフトバンクによるキャンペーンや広告戦略がiphoneと日本人消費者との壁を取り払うと、日本の従来の携帯にはなかった操作性と利便性に多くの日本人が飛びついた。日本の携帯メーカーにとっては肩透かしであったに違いない。今まで日本の消費者のニーズを汲むつもりでカメラやオサイフ機能などをバージョンアップさせていたのに、アップルの技術力の方にも多くの日本人が惹きつけられた。企業側は「例え海外需要がなくても、日本国内の需要は確保できる」と思っているかもしれないが、消費者は企業の思惑とは無関係に素直である。海外製品が素晴らしければ、そちらを買うだろう。

またこの「パラダイス鎖国」を読んで想起したのは日本の出版事業である。日本の出版事業は昔からのしがらみによって支えられた鎖国状態の業界である。(ただパラダイスであるとは断言しづらい。日本の出版業界の経営の悪化はよく知られているところである。)近年この出版事業に訪れた「電子書籍」という黒船はこの鎖国状態を大きく動かした。google book search騒動が示したように、日本が電子書籍という世界の潮流に乗るのに最も足かせとなったのが、契約に関する取り決めがなされていないなど日本的なしがらみを多く持った出版業界の体質であった。パラダイス鎖国状態では、世界で生まれた新しい技術に消費者の目線が向いたときに、日本のメーカーがそれに対応しきれない。特に最近はインターネットの発達で、消費者はどんどんグローバル化している。「日本の内需は確保できる」という甘い見込みでは、パラダイス状態はいずれなくなってしまうであろう。

「今ある安泰は未来なくなるかもしれない」という長期的視野をもって、常に世界に対し挑戦を続けることが日本の課題ではないかとこの本を読み感じた。

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