2010年6月4日金曜日

【ホンヨミ!】0604①本の現場【田島】

永江朗『本の現場 本はどう生まれ、だれに読まれているか』ポット出版


ポット出版の本は去年の電子書籍に関する三田祭論文を執筆する際にも大変参考になった。慣習にとらわれがちな出版界のなかで、つねに変化に柔軟な書籍を発刊するポット出版の姿勢はとても好感が持てる。

自分の論文のテーマ範囲ともかぶるところがあり、「情報の無料化」の部分をとても興味深く読んだ。

 ポット出版は2003年3月に同社が発行した伏見憲明編著『同性愛入門』(1848円)を3年後ネットで無料公開した。これは同性愛初心者の10代のために書かれた入門書で、毎年少数でも一定数のニーズが見込まれる本ではあったが、新刊偏重の書店界では既存本を置いてもらうことは難しい状況だった。しかしなぜ有料版ネットダウンロードではなく、無料公開を行ったのかについて、ポット出版はこう語っている。「嗅覚ですね。電子書籍にしても、たぶん売れないだろうな、と。それより、ポット出版はこれからも伏見憲明さんの本を出していくし、ゲイのなかで『ポット出版は信頼できる』と思ってもらえる方がトクだと考えたんです。」実際、ポット出版の行った無料公開はゲイ・コミュニティで大きな話題になったという。 以上の例のように、純粋な書籍の売上のみにこだわるのではなく、プロモーションやニーズを意識して情報の価格を柔軟に変えていく風潮がこれからも進んでいくだろう。書籍とは人間が持つ情報をパッケージ化したものであると考えると、今まで紙媒体書籍の内包する情報はあまりに頑なな壁に囲われてきたといってよい。日本においては「再販制度」が維持され、書籍の値段はたとえ時代がたってその情報の価値・ニーズが低下していたとしても、いつでもどこでも定価販売が貫かれていた。(二次流通を除く) しかし、インターネットの出現は情報をパッケージから解放し、文字情報も固定されたパッケージ価格ではなく、ニーズと戦略に合わせて価格を柔軟に変化させる時代に来ていると考える。そして、出版社においてはその変化に対応し消費者のニーズを敏感に感じ取れるマーケティングセンスのある人材が求められてくるだろう。書籍の情報が自由化され、より競争的な市場に出て行くうえで、その手綱をしっかりと握っていくことが出版社にとっては必要となってくる。書籍の情報をどう効果的に売るかは、小売サイトではなく、著者と契約を交わした代理人である出版社がきちんと責任を見なくてはならない。

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