2010年5月21日金曜日

【ホンヨミ!】0521①ジャーナリズム崩壊【吉田】

『ジャーナリズム崩壊』 上杉隆

本書は、「記者クラブ」という日本独特の制度を体系的に分析しつつ、筆者の経験に基づいてその弊害について批判を加えている。

筆者は、記者クラブを一種の同業者ギルドとして描いており、新聞やテレビ、通信社所属の記者は「ジャーナリスト」というより既得権に守られた「サラリーマン」のように見受けられる。メモ合わせなどにより「談合」している分、一般のサラリーマンよりも性質が悪いのかもしれない。

そもそも記者クラブは、1890年、帝国議会が発足した当初は、情報を隠蔽しがちな政府官庁に対して報公開を求める組織として結成された「議会出入り記者団」が元となっている。戦時中に翼賛政治の一翼を担った反省から、戦後は「親睦社交を目的として組織するものとし、取材上の問題には一切関与せぬこととする」という方針の下で、筆者の言うところの「米国的プレス精神」に基づく団体になった。しかし、1978年、その目的が「日常の取材活動を通じて相互の啓発と親睦をはかる」ことに変更されたことで、現在のような構成員のみで情報を共有し、フリーランスや外国人記者などの部外者を排除する体質になったと筆者は指摘している。また、このような閉鎖的な仕組みが行政や政治などの権力側に利用されている現状を厳しく指摘している。

本書における取材現場についての細密な描写は大変興味深いものであり、日本のメディアの現状を理解するための非常に良い教材であると感じた。また、本書の中でのメディアについての数々の指摘は、メディアの在り方について考えさせられるものであった。特に欧米のメディアにおいては報道と経営が分離しているのに対して、日本では記者がそのまま経営陣となって経営・報道双方に大きな影響力を持つことが、日本のメディアが抱える諸問題の一因であるという指摘は、今までなかった新しい視点を与えてくれるものであった。

あえて難点を指摘するとすれば、米国のメディアを過剰に賛美していることなどがあげられるが、本書がメディアについて考えさせられる良書であることは間違いない。

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